労働判例紹介
配転命令拒否による解雇を有効とした事例
2025/09/11
東京地方裁判所令和7年1月31日判決
事案の概要
原告は被告会社に平成30年11月1日付で採用され、WEB統括部・プロダクト開発部に所属して業務を開始した。被告会社の就業規則には配置転換を含む異動があること、従業員は正当な理由がない限り異動を拒めないことと規定されている。
原告は、所属部署がコミュニケーションを重視する部署であったのに対して、報連相ができないなど、問題点が指摘されていた。また、人事評価も下位であるなどの事情もあった。
被告会社は、顧客がコロナの流行によって業績不振となったことなどから、債権回収を強化しなければならない状況にあったが、当該部門(バイヤー部門)は人が足りず、人員の増強が必要であった。そこで、原告に令和4年4月25日に異動の内示をし、同年5月1日付で配転命令を出した。
原告はこれを不満に思い、当該部署に出勤せず、また、正当な理由のない欠勤もあるなどとして厳重注意を行ったが、それでも原告は態度を変えなかったために令和5年3月31日付で解雇した。
判旨
使用者の配置転換命令権は無制約に行使することができるものではなく、これを濫用することは許されず、配置転換命令につき業務上の必要性が損じない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該配置転換命令が他の不当な動機、目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利濫用になるものではないというべきであるとして、本件配置転換命令は有効であり、解雇も有効であるとした。
解説
本件では、コミュニケーション能力に不足がある従業員の処遇という、企業では常に発生する問題への対応の一つである。
会社としては、報連相ができない従業員は業務全体に対してのマイナス要素である。しかし、解雇が自由にできないことから、困難社員となってしまう。
コミュニケーションが取れないということでいきなり解雇することはできない。解雇権濫用の典型となってしまう。
そこで考えることは、人事異動で別部署に異動させて別の仕事を担当させるということである。弁護士に相談した場合は、まずこの方法を勧められる手法である。
本件では、人手不足で窓口対応などが滞っていることから、異動させたところ、不満を持って当該部署に出勤しないなどの問題行動を起こしたことが直接の問題となり、解雇となった。
本件では、WEB関係で求人をかけていたことから、職務限定採用であるという主張がなされた。
ただ、通常の採用では職務限定採用はあまりなく、被告会社の就業規則も異動はあること、正当な理由がない限りは拒否できないことと規定されていた。おそらくたいていの会社ではこういった規程があると思われるが、拒否できないという条項が本件でも有効となっている。
本件では求人ではWEB関連業務となっていたが、それが職務限定採用ではないとされた。
判旨にあるように配置転換は自由ではないが、一定の裁量はある。その裁量を逸脱しなければ問題なく人事権が行使できる。本件は、問題のある従業員の適性を考えて他の部署に当ててみるという点で、解雇を避けて雇用を継続する方向のものであるため、従業員のための異動でもあった。
これを問題視されたら会社としてはどうにもならない。会社側がトラブルに巻き込まれたという感想を持たざるを得ない。
これを機に、就業規則の人事異動に関する規程の点検をしておくとよいと思う。
概要
コミュニケーションに難のある従業員を、人手が足りない部署への異動を命じたところ、これを不服として異動を命じられた部署に出勤せず、欠勤もあり厳重注意をされても従わなかったために解雇となった。会社にとって必要な配置転換であり、人事権の濫用にはあたらないとして裁判所は解雇を有効とした。

